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第287話 

「もういい年して、くすぐったがるなんて」修は小声でぼそりとつぶやいた。「別に初めて触るわけでもないのに」

彼女の体のどこを自分が触ったことがないというのか?

それが今、離婚した途端に触らせてもらえないなんて、なんてケチなんだろう。

そんな考えが浮かんだ瞬間、自分でも可笑しくなった。

もう彼らは離婚しているのだから、彼女が触らせないのは当然だ。

むしろ、ケチなのは自分の方だ。

修はベッドの傍から立ち上がり、「それじゃあ、顔を洗ってこいよ。キッチンにはもう朝食が用意してある」と言った。

彼女が目覚めた時にお腹が空かないよう、彼は早めにキッチンに朝食を準備させていたのだ。

若子は特に言葉を返すこともなく、ベッドから降りて浴室へ向かった。

鏡の前に立ちながら、自分の顔をじっと見つめ、頭の中ではずっと夢の中の光景がちらついていた。

洗面を終えて浴室を出ると、修の姿はどこにもなかった。

松本若子はスマホを手に取り、遠藤西也にメッセージを送った。「朝ごはん食べた?」

本当は、彼が無事かどうか聞きたかった。しかし、ただの悪夢を見ただけで「大丈夫?」なんて尋ねるのは少し大袈裟に思えた。

しかし、しばらく待っても遠藤西也からの返事は来なかった。

おそらく彼はまだ休んでいるか、何か別のことに忙しいのだろう。

若子はスマホをポケットに戻し、階下のダイニングに向かうと、修がすでに座っていた。

若子は突然、あまり食欲が湧かなくなり、どうしても遠藤西也のことが頭をよぎったが、それでも席に着いた。

朝食はとても豪華だった。

「なんでこんなにたくさん作ったの?」若子は尋ねた。

「お腹が空いたって言っただろう?だからたくさん食べろよ」修は彼女の皿に卵を二つ載せた。

「お粥だけで十分よ」

若子はお粥を一杯手に取り、スプーンで一口ずつ飲み始めたが、どこか上の空で、何かを考えているようだった。

「どうしたんだ?」修は彼女の様子に気づき、不思議そうに尋ねた。

若子は首を振って、「なんでもないわ。朝ごはんを食べましょう」と答えた。

二人は静かに朝食を終え、食事の後、若子は再び修の薬を塗ってあげた。

彼の傷は昨日よりも少し良くなっているようだった。

「修、あなたはちゃんと休んで。私はそろそろ帰るわ。ここにはもう私が世話する必要もないと思うから」

昨日は彼のこと
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